2013年11月20日水曜日

iTunes Store と Amazon MP3 の音質比較

近、CD は発売せずに iTunes Store や Amazon MP3 のみで楽曲を販売するアーティストが増えています。CD をプレスするのはコストがかかるので、「売り出し中」のアーティストの場合、こういったダウンロード販売で様子を見て、売れ行き好調なら本格的に CD デビューさせよう、ということなのかも知れません。あるいは、中間業者が減ってアーティスト自身の収入に直結しやすい、ということもあるかも知れません。

iTunes Store と Amazon MP3 は、いずれも DRM フリーで高音質をアピールしていますが、実際のところはどうなのか、後学のために両方で同じ楽曲を購入して比較してみました。なお、使い勝手( iTunes Store なら iPhone で便利などの)に関しては度外視して、純粋に音質だけ比較しています。

入した楽曲は、スウェーデンの新進メロディックメタルバンド Misth の Rise of a New Day です。いちおう Web Shop があって CD も販売しているようなのですが、あまりまともに機能しているフシがありません(所在地とか電話番号とかテキトーだし...)。米 Amazon.com を始め海外の通販も探しましたが、CD は入手困難のようです。

較方法は、
  1. ファイルサイズやエンコードの違いを比較する。
  2. スペクトラムとスペクトログラムで視覚的に比較する。
  3. 実際に聞いて、聴感により比較する。
という三段構えで行います。「2」は公正を期す意味とともに、一見して違いが分かりやすいためです。「3」は、「1」や「2」で明らかになった違い(あるいは顕著な差がないこと)が聴感に影響しているのかを確かめる意味とともに、何と言っても実際に聞いて心地よい方が偉い(?)ためです。

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Facebook でリアル友人から「先に聴感テストした方が良かったんじゃない?」とコメントをもらったので、少し補足を。

確かに、最初にデータや数値を見てしまうと「きっとこういう音だろう」と先入観を持ってしまう危険はあります。このようなバイアスを避ける最良の(そして唯一の)方法は、ブラインドテストです。つまり、今どちらのファイルを再生しているのか、聞く人には分からないようにしてテストすることです。

今回、私は1人でテストしているので、ブラインドテストができませんでした。どちらがどのような音かは分からないものの、どちらを聞いているかは明らかなので、少なくとも「違うものを聞いているというバイアス」は避けられません。また、どちらも圧縮されていると知っているので、「CDよりは劣るだろうというバイアス」も避けられません。


今回の比較は、どちらかというと技術的関心から行っています。すでに何らかのバイアスがかかっている私の聴感に基づく評価より、公明正大に客観的な比較をした方が良かろうという趣旨です。

純粋な聴感テスト(たとえば無圧縮と高ビットレートの圧縮で確実に聞き分けられるか)にも興味はあるので、これはこれで、いずれテストする機会を設けたいですね。
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1. ファイルの比較
iTunes Store で購入した楽曲ファイル(→ iTunes Store へのリンク。試聴できます)は、AAC 268kbps でした。公式には iTunes Plus は AAC 256kbps となっているので、これより若干ビットレートが高いことになります。可変ビットレート ( VBR ) を採用していることによる「ブレ」でしょう。価格は1曲当たり250円です。

正確なデータ量は、13,339,968バイトでした。

Amazon MP3 で購入した楽曲ファイル(→ Amazon.co.jp へのリンク。試聴できます)は、MP3 287kbpsでした。公式には 256kbps VBR となっているので、こちらも若干高いことになります。価格は1曲当たり150円ですが、Amazon.comでは $0.99 になっています(これに限らず、Amazon.com の方が全般に安いです)。

正確なデータ量は、13,914,535バイトでした。

2. スペクトラム、スペクトログラムの比較
まず、iTunes Store で購入したファイルです。ソフトは Sonic Visualizer を利用しました。上段が波形図、中段がスペクトラム、下段がスペクトログラムです。

スペクトラムは右へ行くほど周波数が高くなり、右端で約 20kHz です。カーソル位置(上段・下段の中央にある縦棒の位置)での周波数分布を表しています。その下部に鍵盤状のメモリがあり、中央付近の紫色の鍵盤が中央ハ(約 260Hz )です。灰色の鍵盤がオクターブ違いのハ音を示しています。

スペクトログラムは上へ行くほど周波数が高くなり、上端で約 20kHz です。横方向は波形図と一致していて、楽曲の25秒〜1分35秒にかけての周波数分布の変化を表しています。

これだけ見ると、低域から高域までスムーズに収録されており、不自然なところはほとんど見当たりません。そこで、参考までに、全く別のアーティスト Amaranthe の楽曲 Amaranthin のデータと比較してみましょう。こちらは CD から取り込んだ無圧縮のもので、ジャンルは同じく北欧系のメロディックメタルです。

マスタリング等が異なるので一概には言えませんが、比べてみると無圧縮との差は歴然としています。スペクトラムで見比べると、4kHz 前後まではほとんど差がありませんが、上の AAC のグラフでは 4〜6kHz 付近(紫色の鍵盤から数えて右に4つ目)でなだらかに減衰し、そこから 18kHz 付近まで一定で、20kHz にかけて減衰しているのが分かります。また、スペクトログラムで見ても、AAC の方は中高音の色が薄くなっているのが分かります。

次に、Amazon MP3 で購入したファイルです。

正直、ここまで差があるとは思いませんでした。4〜6kHz にかけていったん落ち込み、そこから 18kHz 付近まで一定している点は、iTunes Store の AAC と良く似ています。しかし、一見して明らかなように、その先がバッサリ切り落とされています。スペクトログラムの方に矢印を引いた通り、18kHz で完全に切れ落ちています。また、部分的に 16kHz で切れているのも分かります。

仔細に見ると、スペクトラムの「ヒゲ」の大きさや形も、微妙に違う部分があります。また、スペクトログラムの方で見ると、色の濃さという意味では、iTunes Store よりも Amazon MP3 の方が濃いように見えます。

+-----+ [2014/02/05改訂] +-----+
この意味を少し考えてみると、4kHz というのは人間の聴覚にとって1つの重要な基準になっています。1つは、アコースティック楽器の基音の最高音がおおむね 4kHz という点です。たとえばピアノの最高音の基音は、約 4200Hz です。また、日常生活における聴力という意味でも、4kHz は難聴の1つの指標になっています。このことから、圧縮する場合でも 4kHz まではできるだけ残しておくことが必要と判断されている、と推察できます。

→ 後日、 CD 相当のファイルと比較 したところ、4〜6kHz 付近の「棚」は制作段階から存在するもので、圧縮に伴うものではなさそうです。
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一方、人間の解剖学的な意味での可聴帯域の上限は 20kHz 程度と言われていますが、実際には 15〜16kHz 辺りで頭打ちになる人が多いようです。Amazon MP3 で 18kHz(場所によって 16kHz )以降がバッサリ切り捨てられているのは、これに基づくものでしょう。「大半の人に聞こえない音」なので潔く切り捨ててしまって、少しでも容量を削減したい(効率的に使いたい)という訳です。Amazon MP3 の方が、「色が付いている範囲では濃く見える」というのも、高域を切り捨てた分、より密度を上げられた結果だと推察できます。

3. 音を聞いてみる
上で視覚化して比べてみましたが、これだけでは実際の良し悪しは断定できません。結果的に、耳で聞いて心地よければ、スペックで劣っていても問題ありません。

iTunes Store の AAC は、聞き始めた瞬間に大人しい音だと感じます。刺々しさがなく、悪く言えば霞がかかったようなモヤモヤ感があり、良く言えば中音域の充実した芯のある音です。音場はさほど広くなく、少し箱庭的な雰囲気があります。

Amazon MP3 の方は、一転してメリハリのある音です。良く言えばクリアですが、むしろ音の終わりの減衰の仕方が不自然に聞こえます。スーッと消えていくのではなく、ある瞬間を境に忽然と消えてなくなるので不気味です。特に、シンバルなどの金物は壊滅的で、シンバルの種類の違いや叩く部分の違いが全く分かりません。音場は、広いというより左右に分離していて、空中分解している感じです。

ちなみに、上の YouTube の動画の音は、それぞれの「悪いとこ取り」みたいな音です。

4. 結論
Amazon MP3 も、それ単体で聞けば「聞けなくはない」音です。少なくとも、YouTube の音とは比較にならないほど良いと言えます。ポータブル用と割り切って、かつ、Android などの Apple のサービスが利用できない端末であれば、十分選択肢としてあり得ます。

しかし、今回の比較に関する限り、iTunes Plus の音には及ばないと言わざるを得ません。こちらも一聴して「ああ、圧縮された音だな」と分かるものですが、全体的にソツなくまとまっています。Amazon MP3 に比べて1曲当たり100円も高いですが、アルバム単位で買えば10曲1650円なので、あまり大きな差はありません( Amazon MP3 だと10曲1500円)。

どちらも不可逆圧縮なので音質を語るレベルではないと言ってしまえばそれまでですが、現実問題として CD がなくダウンロード販売のみというアーティストが増えているので、少しでも音質の良い方を選びたいところです。高音質というと e-onkyo music などの「ハイレゾ」を謳うダウンロード販売サイトもありますが、そもそも品揃えが悪すぎるので論外です。

今回の結果を踏まえて、今後ダウンロードで購入するときは基本的に iTunes Store を使っていくことにしますが、フォーマットに変化があったときは随時チェックしていこうと思います。

+-----+ [2014/02/05追記] +-----+
本文中でも書きましたが、後日、CD 相当の FLAC ファイルをダウンロード販売で購入して、再度比較し直しています。→ 「 続・iTunes Store と Amazon MP3 の音質比較
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